0

まちで話題の“あの人”に会いたい!

↓SNSでシェアしてね

大人も子どもも一緒に子どもになれたら楽しい

光の切り絵作家
酒井敦美さん

 もうすぐクリスマス。街を彩るイルミネーションに思わずウキウキしたり、ホッとなごんだり。光って、ふしぎな魅力がありますよね。
今回ご紹介するのは、光の芸術で全国にファンを持つ、尾張旭市出身のアーティスト酒井敦美さん。2016年の「ながくて冬まつり」では、文化の家のアトリウムを光の切り絵で幻想的な空間に変身させて話題となりました。また、偶然訪れた高知県佐川町での出会いがきっかけで実現した野外幻灯「酒蔵ロード劇場」は、10年間続く町の一大イベントとなっています。お話をうかがうなかで、ふわっとやわらかな印象の酒井さんの奥底に秘められた制作活動にかける思いや、子どもも大人も魅了するあたたかな作風の原点に触れることができました。
(インタビュー・文/石川多美子)

さかいあつみ
名古屋市千種区生まれ。大学卒業後、舞台美術としての影絵(切り絵)と出会い、鬼頭隆さん(創作おじんの童話会)鬼頭瑞希さんの舞台などで、背景の影絵を担当。その経験から発想した「光の切り絵」を各地のイベントなどで発表している。


愛知出身の酒井さんと「高知県佐川町」との接点は?

 四国には作家活動をはじめた頃からスケッチ旅行で何度か訪れていました。父が亡くなったときにも、なんとなく導かれるように行って。たまたま歩いていたところを、ひとりの女性に話しかけられました。あとで聞いたら「若い子がふらふらと危なげで心配だったから声をかけた」と。話をするうち、その方も作家さんだとわかって。彼女、「酒蔵の壁をアートで彩るイベントを企画して、まちを元気にしたい」という夢を話してくれて。「実は私、舞台で切り絵を映してて、ずっと外での投影をしてみたかったんです」と。そんな偶然のできごとから始まった『酒蔵ロード劇場』が10年も続くなんて、そのときは想像もしていなかったです。

作家活動を始められたきっかけは?

 子どもの頃から工作やお絵かきが大好きで。「学校の授業が図工だけだったらなあ」なんて思っていたくらいでした。でも、絵はあまり上手じゃなくて。芸術大学への進学はあきらめて建築設計の学科に進み、卒業後は建築系の会社に就職しました。ただ、設計を学びながらも、OLになってからも、ずっと心の奥底には「絵を描きたい」という思いがくすぶっていて。会社勤めのかたわら絵を描き始めました。四国へ旅に行くようになったのも、そんな頃です。

インテリアのように置かれたOHP(左)で切り絵(右)を壁に投影。照明を落とすと幻想的な空間に。

OLとの二束のわらじから作家活動一本にされたのは?

 これもまた偶然のできごとがきっかけで。3才から習っていたピアノの先生のご主人が、童話作家の鬼頭隆さんで、幼い頃から童話朗読会の背景で映される影絵がとても好きでした。
大学卒業を控え、その先の進路に迷っていた頃、偶然に道でばったりと鬼頭隆さんと再会しました。そこで絵の道に進む勇気が持てずに迷う気持ちを打ち明けると、「食べていけるいけないで迷うくらいの中途半端な気持ちなら、それは上手くいかない、やめたほうがいい」そう、厳しい口調で喝を入れられたんです。その時が、絵の道に進む決意をした瞬間でした。
その後、鬼頭さんから「敦美ちゃん、舞台の影絵やってみる?」と声をかけてもらって。私、すかさず「やりたい!」と答えていました。やるとは言ったものの、影絵の制作もOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)での投影も、まったくはじめて。試行錯誤で自分なりの作品を仕上げ、ドキドキで舞台初日を迎えました。リハーサルが始まり、いよいよ緊張のお披露目。客席の真ん中、ひとり見守っていた鬼頭さんが、絵が投影された瞬間、大きな拍手をくださったんです。今でもその時の光景が、忘れられません。

OLを辞めるとき、反対する人や不安はなかった?

 周囲には反対というより心配をされましたね。やはり食べていくことが難しい世界というイメージがありますので。ただ、母だけは背中を押してくれました。「税金くらいは自分で払えるようにがんばりなさいよ!」という一言で(笑)。不安はほとんどなかったですね。なぜかというと、それまでずっと「もっと絵を描きたいのに…」という苦しさを感じてきて、そんな気持ちからやっと解放された!思う存分描ける!という幸せのほうが大きかったからだと思います。

子どもの頃を思い出すような作品がいっぱいのアトリエ。

小さな頃からお母様がずっと応援を?

応援と言えるのかわかりませんが、母はいつも私に「生み出すことの楽しさ」を教えてくれていたと思います。たとえば子どものころ、私が「かるたが欲しい」と言うと、くれたのは厚紙と色鉛筆。自分で作れってことです。また、作家になって、ありがたいことに多くのイベントや展覧会のお話をいただくようになり、嬉しくてついついスケジュールを詰め込みすぎてしまうことがありました。ある雪の日のこと、家にたまたま真っ赤な赤ピーマンがあり、母がニヤニヤしながら「これで雪のショートケーキが作れるね!」と私に話しかけてきたんです。でも、私は制作のことで頭がいっぱいになっていて、スルーしてしまって。そしたら母、「あーちゃん、なんかつまんないねぇ」と。ハッと我に返りましたね。なんだか悔しくて、すぐに雪のショートケーキを作って、「どうだ!」って自慢してやりました(笑)。

「楽しみ方」を与えてくれる大人って素晴らしい!

 そうですね。私のアトリエやイベントに来てくださるお子さんたちに対し、自分は何ができるかな?どんなヒントを与えてあげられるかな?ということを常に考えています。子どもが「こんな物が作りたい」と思っているところに、大人ならではの経験と知恵を生かして「じゃあこれを使って、こんなふうにしてみたら?」と提案して。それでその子が「わあ、そんなやり方があるんだ!」と目を輝かせてくれると、思わず「やった!」と思います。

お母様もきっと同じ気持ちだったのでしょう

 そうかもしれませんね。「子どもだったころ」のことを忘れないでいてくれる。一緒にワクワクしてくれる。そんな大人が周りにいたら、子どもたちはきっと幸せですね。

12月22日(土)・23日(日)あの感動が再び! 
光のアートで大人も子どもも忘れられないクリスマスを。
12月22日(土)・23日(日)あの感動が再び! 光のアートで大人も子どもも忘れられないクリスマスを。

詳しくはこちらをご覧ください。